a little knowledge


A社が日本に輸出した912キログラムのカーゴのはちみつを、日本国内で検査した結果、0.08ppmのグリホサートの残留が検出されました。この値は日本が定めるはちみつ中の残留最低基準値(MRL)の8倍に相当します。

 

厚生労働省は、当該のはちみつを廃棄するか、あるいはニュージーランド(以後 NZと表記)へ返送するよう命じました。

 

このA社のカーゴは、2020年12月17日に日本に到着しました。検査の結果グリホサート残留が確定したのが、2021年1月7日(この日を違反確定日と称します)。

 

この事例がきっかけとなり、厚生労働省はNZから輸入されるはちみつの全量検査の命令(輸入食品に対する検査命令)を発出しました。

 

このはちみつは、一般的なNZ産はちみつとはいくつかの点で性格が異なっています。

マールボロ地域
マールボロ地域

マールボロはNZ最大のワイン生産地です。


どのように異なっているのか、また新型コロナウィルス蔓延がこの事例にどのようにかかわっていたのかを以下に記載します。



(1)生産地の環境が異なる

当該のはちみつの生産地は、南島北部のマルバラです。この地域はNZ最大のワイン生産地です。ワイン用ぶどうには、生育の過程を通じグリホサートがよく使用されます。これはNZだけではなく、他国・他地域でも同様です。NZで良質のマヌカはちみつ生産に注力する養蜂業者は、ワイン用ぶどう生産地域の近くには決して巣箱を設置しません。しかしマルチフローラル(何種類かの花みつの混合)はちみつの製造者は、マヌカ製造者ほど巣箱の設置場所には神経をとがらせません。

 

(2)経験の浅いパッキング業者の利用

 日本の国内基準を満たさないはちみつをパッキングした施設は、2020年7月にNZ政府により輸出用はちみつの製造を認可されたばかりでした(新参の施設であるということは、リスク管理プログラムrisk management program/RMPに沿って操業していたものと考えられます。ただしRMPはNZ国内消費用のはちみつには適用されません)。問題となったはちみつは、この施設が製造・出荷した最初のカーゴ、あるいは最初のカーゴの一つであったと思われます。

 

(3)目標購買層が異なる

 この新しい施設にはちみつのパッキングを発注したNZ企業は、卸売業者ではなく日本の個人客を対象としたはちみつの国際通信販売を行っています。メール、あるいはウェブサイト経由で注文を受け、配送業者が商品を直接購買者のもとに届ける方式です。このような販売方式の場合、個人で消費する程度の少量の注文であれば、日本側の空港・海港での通関手続きや検疫は免除されているのです。

 

(4)新型コロナウィルス蔓延とA社の戦略変更

新型コロナウィルス蔓延により、NZと日本を結ぶフライトが大幅に減便され、その結果NZと日本の間の航空輸送サービスを利用した配送にも大幅な遅れが生じました。以前なら3日から5日で到着した荷物が、現況では3~4週間、場合によってはそれ以上の日数を要するようになってしまいました。そこでこの事態への対策として、当該のはちみつ会社は小口輸送ではなく、一度に912キログラムのはちみつ(主としてマヌカ)を日本に送ることにしたのです。日本に在庫を確保しておけば、日本国内の個人消費者には3日以内に商品を届けることができるからです。A社のこのようなビジネスの手法の変化の結果、規制の対象外であった個人を顧客とする国際通販ビジネスの世界と、輸入にかかる規制や、書類整備の細部にまで気を配ることが絶対に必要な国際貿易の世界が交差し、今回の事態に至ったわけです。


はちみつ残留グリホサートの問題に関する報道を見聞きするたび、思い起こされるのが「生兵法は大怪我のもと」という諺です。口語的に「生半可な知識は仇になる」。英語ではほぼ同等のことわざがあります。 A little knowledge is a dangerous thing (少しばかりの知識は危険なものです).

2021.3.22