ニュージーランドとオーストラリア、マヌカを巡る紛争 ウォールストリート
ジャーナル紙 2016年8月31日記事


australian "manuka" honey

先頃「オーストラリア産『マヌカ』って

どうですか?」というご質問を頂戴しました。

 

私どものはちみつを自然食品店に卸しておられる食品商社様よりのご質問でした。お話によればオーストラリア産「マヌカ」を輸入している企業からの、熱心な売り込みがあったとのこと。

そしてオーストラリア産マヌカは、私どもが提供するマヌカはちみつよりも安価だとのことでした。

 

 オーストラリア産「マヌカ」はちみつは、果たして真正のマヌカはちみつと言えるでしょうか。もしニュージーランドのマヌカと同じ種類の植物由来のはちみつであれば、オーストラリア産の製品がマオリ語である「マヌカ」を称することができるのでしょうか。(1)

 

法的な係争

オーストラリア産「マヌカ」を巡っては、ニュージーランドとオーストラリアの間で

法的な係争中です。ニュージーランドのマヌカはちみつ製造者側は、「マヌカ」の名称を商標登録する措置を講じました。これはニュージーランド以外で生産されたはちみつが「マヌカ」を称するのを防ぐための措置です。(2)

 

マヌカ(学名leptospermum scoparium

 和名ギョリュウバイ)はニュージーランド固有の種だと広く考えられているようですが、これは誤解です。植物学者は、マヌカはオーストラリア南東部のニュー・サウス・ウェールズ州、ビクトリア州、タスマニア州を原産地とするという見解で一致しています。

 

オーストラリア原産ではありましたが、数百年前にマヌカがニュージーランドに持ち込まれましたが、オーストラリアよりもニュージーランドの気候のほうが繁殖に適していたため、やがてニュージーランド全土に広がりました。

 

ジェリーブッシュ・ハニー

オーストラリアではもともとこの木はジェリーブッシュまたはティートゥリーの名で知られています。ですからオーストラリアの製造者は、この花から採れたはちみつに、以前はジェリーブッシュ・ハニーあるいはティー
トゥリー・ハニーという名称を用いていました。

一方ニュージーランドではこのはちみつはずっと「マヌカ」と呼ばれてきました。これはマオリ語の名称です。

 

1990年代、ニュージーランドにおける科学的な研究を通じ、マヌカはちみつに強力な抗菌成分があることが明らかになりました。ニュージーランドの研究者に、後にドイツ(およびオーストラリア)の研究者が加わり、マヌカはちみつについての研究が進められてきました。

 

ニュージーランドの研究者

マヌカはちみつの抗菌力を測定する方法を開発したのは、ニュージーランドの研究者でした。この測定方法を用い、マヌカの格付システムを始めたのがユニークマヌカファクターはちみつ協会(UMFHA)が主導するニュージーランドのはちみつ製造業者です。

 

ニュージーランドのはちみつ製造業者はその後、ニュージーランド内外でさまざマヌカ市場を開拓し、さまざまな格付けのマヌカを販売してきました。この努力の結果、マヌカの特別な抗菌力が世界中で知られ、珍重されるようになったのです。 

 

(偽マヌカはちみつの製造・販売に対する懸念から、2014年、ニュージーランド政府は規制を強化しました。この規制により、消費者の誤解をまねく表示および広告が取り締まられ、マヌカはちみつについての科学的な定義が公式に定められました。この結果、マヌカ
はちみつに対する消費者の信頼感が向上しています。)

こうしたニュージーランドの状況を対岸から見ていたオーストラリアのはちみつ製造業者は、同種のはちみつについて「ジェリーブッシュ・ハニー」「ティートゥリー・ハニー」の名称を殆ど使わなくなってしまいました。

 

無断で利用

このことは、ニュージーランド側にしてみれば、これまで自分たちが開拓してきた市場や、積み上げてきた科学的知見を、オーストラリア側が無断で利用しているように思えるわけです。オーストラリア産「マヌカ」が販売されているのは、今では日本国内だけではありません。

 

leptospermum scorpariumがオーストラリア原産であるとはいえ、オーストラリアにはおよそ80種類ものギョリュウバイ(leptospermum)属の木があります。

オーストラリア産「マヌカ」はちみつが、どのギョリュウバイ属の花から採られたものかについては必ずしも明確であるとはいえません。

 

たとえばオーストラリアではleptospermum polygalifoliumという種の花から採ったみつでも「ジェリーブッシュ」あるいは「マヌカ」と呼ばれています。

 

マオリ語

ニュージーランドでは、ギョリュウバイ属のどの花を蜜源としたかについての混乱が生じることはありません。ニュージーランドのギョリュウバイ属はleptospermum scorparium(マオリ語でいうマヌカ)だけだからです。

ニュージーランドの気候と土壌が、マヌカはちみつの抗菌効果を作り出しているといえるでしょう。


日本では、「的矢牡蠣」「比内鶏」など、食品素材に土地の名前を冠することがよくあります。ではもし、オーストラリアが自国産の牛肉を「神戸牛」と名付けたらどうでしょうか。

あるいはオーストラリア産の柑橘を
「土佐文旦」と名付けたら? ニュージーランドのウィスキー醸造所が「白州シングルモルト」を名乗ったら?

 

「スコッチ・ウィスキー」の名称は、スコットランドにおいて、スコットランドの水を使って醸造されたものでなければ(このほかにも条件はありますが)、使用が許されません。

 

「コーニッシュ・ペストリー」は、コーンウォール地方で、特定のレシピに従って作られたもののみがその名を称することができます。また、「シャンパン」の名称を使えるのはシャンパーニュ地方産の発泡ワインのみです。

たとえシャンパーニュ産と同じぶどうで作っていたとしても、「シャンパン」と称することはできません。「フェタ・チーズ」はギリシアのフェタ地方で作られたチーズにのみあてはまる名称です。

 

「スコッチ・ウィスキー」「シャンパン」といった名称は、商標および経済協定や各種連合(例えばEU/ヨーロッパ連合)、二国間貿易協定(例えばEUと日本間)により保護されています。

 

ニュージーランドのはちみつ業界でも、マヌカはちみつについて、上記製品のように名称を保護すること考えています。



1. マオリ族とは、ポリネシアに起源を持つ人々で、12世紀から13世紀にニュー

ジーランドにやってきたと考えられています。厳密に言えば、ニュージーランドには

先住民族はいません。ニュージーランドはこの地球で最後まで残った無人の島でした。

 

2. ニュージーランドとオーストラリア、マヌカを巡る紛争 ウォールストリート
ジャーナル紙 2016年8月31日記事