オーストラリアの「マヌカハニー」

オーストラリア産「マヌカ」はちみつは、果たして真正のマヌカはちみつと言えるでしょうか。もしNZのマヌカと同じ種類の植物由来のはちみつであれば、オーストラリア産の製品がマオリ語である「マヌカ」を称することができるのでしょうか(1)

 

法的な係争

オーストラリア産「マヌカ」を巡っては、NZとオーストラリアの間で法的な係争中です。NZのマヌカはちみつ製造者側は、「マヌカ」の名称を商標登録する措置を講じました。これはNZ以外で生産されたはちみつが「マヌカ」を称するのを防ぐための措置です(2)

 

マヌカ(学名leptospermum scoparium和名ギョリュウバイ)はニュージーランド固有の種だと広く考えられているようですが、これは誤解です。植物学者は、マヌカはオーストラリア南東部のニュー・サウス・ウェールズ州、ビクトリア州、タスマニア州を原産地とするという見解で一致しています。

 

オーストラリア原産ではありましたが、数百年前にマヌカがNZに持ち込まれましたが、オーストラリアよりもNZの気候のほうが繁殖に適していたため、やがてNZ全土に広がりました。

ジェリーブッシュ・ハニー

オーストラリアではもともとこの木はジェリーブッシュまたはティートゥリーの名で知られています。ですからオーストラリアの製造者は、この花から採れたはちみつに、以前はジェリーブッシュ・ハニーあるいはティートゥリー・ハニーという名称を用いていました。

一方NZではこのはちみつはずっと「マヌカ」と呼ばれてきました。これはマオリ語の名称です。

 

1990年代、NZにおける科学的な研究を通じ、マヌカはちみつに強力な抗菌成分があることが明らかになりました。NZの研究者に、後にドイツ(およびオーストラリア)の研究者が加わり、マヌカはちみつについての研究が進められてきました。

NZの研究者

マヌカはちみつの抗菌力を測定する方法を開発したのは、NZの研究者でした。この測定方法を用い、マヌカの格付システムを始めたのがユニークマヌカファクターはちみつ協会(UMFHA)が主導するNZのはちみつ製造業者です。

 

NZのはちみつ製造業者はその後、NZ内外でさまざマヌカ市場を開拓し、さまざまな格付けのマヌカを販売してきました。この努力の結果、マヌカの特別な抗菌力が世界中で知られ、珍重されるようになったのです。 

 

(偽マヌカはちみつの製造・販売に対する懸念から、2014年、NZ政府は規制を強化しました。この規制により、消費者の誤解をまねく表示および広告が取り締まられ、マヌカはちみつについての科学的な定義が公式に定められました。この結果、マヌカはちみつに対する消費者の信頼感が向上しています。)

 

こうしたNZの状況を対岸から見ていたオーストラリアのはちみつ製造業者は、同種のはちみつについて「ジェリーブッシュ・ハニー」「ティートゥリー・ハニー」の名称を殆ど使わなくなってしまいました。

無断で利用

このことは、NZ側にしてみれば、これまで自分たちが開拓してきた市場や、積み上げてきた科学的知見を、オーストラリア側が無断で利用しているように思えるわけです。オーストラリア産「マヌカ」が販売されているのは、今では日本国内だけではありません。

 

leptospermum scorpariumがオーストラリア原産であるとはいえ、オーストラリアにはおよそ80種類ものギョリュウバイ(leptospermum)属の木があります。

オーストラリア産「マヌカ」はちみつが、どのギョリュウバイ属の花から採られたものかについては必ずしも明確であるとはいえません。

 

たとえばオーストラリアではleptospermum polygalifoliumという種の花から採ったみつでも「ジェリーブッシュ」あるいは「マヌカ」と呼ばれています。

 

マオリ語

NZでは、ギョリュウバイ属のどの花を蜜源としたかについての混乱が生じることはありません。NZのギョリュウバイ属はleptospermum scorparium(マオリ語でいうマヌカ)だけだからです。

NZの気候と土壌が、マヌカはちみつの抗菌効果を作り出しているといえるでしょう。

中国産の「和牛」

製品の名前に産地を付加することで、それが伝統的な手法で製造されたことや、品質管理が厳正に行われている証しとなります。

 

農産物の場合、土地の気候・土壌の条件が、味や質感、色合いなど、その食品の特性に影響を与えます。

 

和牛とコシヒカリといったものもこの例です。中国産ビーフに「和牛」という名前をつけることはできるでしょうが、もしその牛肉を日本が輸入したとしても、日本の消費者はそういうものを警戒し、受け入れられないでしょう。

 

コシヒカリは合衆国でも生産されていますが、日本の国策としてそういうものは輸入していません。もし合衆国産コシヒカリが日本に輸入されても、日本の消費者がそれを歓迎するとは考えられません。

 

生産地の名前を冠した神戸ビーフや白州シングルモルトは、日本国内で製造されたものに限定されるわけです。

 

 同様「スコッチ・ウィスキー」の名称は、スコットランドにおいて、スコットランドの水を使って醸造されたものでなければ(このほかにも条件はありますが)、使用が許されません。

 

「コーニッシュ・ペストリー」は、コーンウォール地方で、特定のレシピに従って作られたもののみがその名を称することができます。また、「シャンパン」の名称を使えるのはシャンパーニュ地方産の発泡ワインのみです。

 

たとえシャンパーニュ産と同じぶどうで作っていたとしても、「シャンパン」と称することはできません。「フェタ・チーズ」はギリシアのフェタ地方で作られたチーズにのみあてはまる名称です。

 

「スコッチ・ウィスキー」「シャンパン」といった名称は、商標および経済協定や各種連合(例えばEU/ヨーロッパ連合)、二国間貿易協定(例えばEUと日本間)により保護されています。

 

NZのはちみつ業界でも、マヌカはちみつについて、上記製品のように名称を保護することを考えています。



(1) マオリ族とは、ポリネシアに起源を持つ人々で、12世紀から13世紀にNZにやってきたと考えられています。厳密に言えば、NZには先住民族はいません。NZはこの地球で最後まで残った無人の島でした。

 

(2) ニュージーランドとオーストラリア、マヌカを巡る紛争 ウォールストリート
ジャーナル紙 2016年8月31日記事

Australian "manuka" honey | updated 2022.4.30