マヌカはちみつの医療への応用と、日本の事情には関連があります。それは、日本は韓国・モンゴルにつぎ、世界で第三番目に胃がん発生率が高いという統計です(1)。
胃がんの基本的原因は胃潰瘍です。一般にピロリ菌として知られるヘリコバクター・ピロリ(H.pylori)が消化管に入り込むと、潰瘍が生じる場合があります(2)。1994年と2007年に、マヌカがピロリ菌を無効化させるという研究結果が公表されました(3)。
最初の研究(1994 年)は日本国内で反響をよびました。ピロリの治療は高価であることに加え、菌そのものを無効化するのではなく菌の活動を抑えるものだからです。しかし、ピロリ菌を完全に取り除けば胃潰瘍の予後がよいという報告もあります(4)。
(日本における胃がん発生率は10万人あたり27.5人で、患者数はおよそ37,000人です(5)。
ピロリ菌その他何種かのバクテリアは、抗生物質が効かない「スーパーバグ(耐性菌)」と呼ばれます。世界保健機関(WHO)は先頃、ピロリ菌を新規抗菌薬が緊急に必要な薬剤耐性菌のリストの第六位に指定しました(緊急性「高」)(6)。
抗生物質(抗菌薬)のなかには、使いすぎると菌が耐性を持ってしまうものもありますが、現在までマヌカはちみつに対する耐性ができた菌はないという研究結果が報告されています(7)。
医学研究者はマヌカはちみつがピロリ菌に効果があることをまだ証明していません。1994年と2007年の研究は両方とも、臨床試験ではなく生体外で行われたものだからです。1999年に行われた臨床試験では、マヌカはピロリ菌には効果を示しませんでした。とはいえこの実験に参加した患者数は6名、実験期間は6週間という小規模なものでした(8)。
ですから、胃がんに対するマヌカはちみつの効果の有無を確定するためには、さらなる実験が必要です。それも、対象とする人数をもっと増やし、もっと長期間行う実験が求められます。
右に示すのは、世界保健機関(WHO) が2017年2月27日に発表した、人間の健康に最大の危険をもたらす細菌一覧です。全部で12種類が提示されています。これらの細菌すべてが抗生物質に対する耐性があり、「優先対処すべき病原菌」と呼ばれています。
注意:上記の実験に用いられたマヌカはちみつは「医療用」や「臨床用」グレードのものではありません。「医療用」「臨床用」グレードと呼ばれるものは、ガンマ線(放射線の一種)を照射したマヌカはちみつだけです。ガンマ線を照射することで、ボツリヌス菌を発生させるクロストリジウム胞子が死滅し、傷口に塗布できるようになります。ガンマ線の照射により、はちみつの抗菌力が損なわれることはありません。
医学的研究の結果、生体外実験(インビトロ)では以下の細菌一覧のうち、(1)(2)(3)(5)(6)(8)(12) に対し、マヌカはちみつに抗菌作用があることが確認されました。生体内実験(インビボ)では(11)に対しマヌカはちみつの抗菌作用があることも大々的に報じられました(9)。
緊急性「重大」(#)
(1)アシネトバクター・バウマニ:カルバペネム耐性
(2)緑膿菌:カルバペネム耐性
(3)腸内細菌化細菌:カルバペネム耐性、第三世代セファロスポリン耐性
緊急性「高」
(4)エンテロコッカス・ファシウム:バンコマイシン耐性
(5)黄色ブドウ球菌:メチシリン耐性、バンコマイシン低感受性、バンコマイシン耐性
(メシチリン耐性黄色ブドウ球菌はMethicillin-Resistant Staphylococcus Aureus のイニシャルを取ってMRSAと呼ばれることも多い)。
(6)ヘリコバクター・ピロリ:クラリスロマイシン耐性
(7)カンピロバクター:フルオロキノロン耐性
(8)サルモネラ菌:フルオロキノロン耐性
(9)淋菌:フルオロキノロン耐性、第三世代セファロスポリン耐性
緊急性「中」
(10)肺炎レンサ球菌:ペニシリン非感受性
(11)インフルエンザ菌:アンピシリン耐性
(12)赤痢菌:フルオロキノロン耐性
#マイコバクテリウム(ミコバクテリウムとも。ヒト型結核菌もこの一種)はこの一覧には入っていません。これは、マイコバクテリウム対策の緊急性が、既に世界規模で認知されているからです。
出典
(1)World Cancer Research Fund International (UK).
https://www.wcrf.org/dietandcancer/cancer-trends/stomach-cancer-statistics
(2)WebMD.
https://www.webmd.com/cancer/stomach-gastric-cancer#1
(3)“Susceptibility of Helicobacter pylori to the antibacterial activity of manuka honey”. Al Somal N., et. al. Journal of Royal Society of Medicine (1994).
And: “In vitro antimicrobial activity of selected honeys on clinical isolates of Helicobacter pylori”. Ndip R.N., et. al. African Health Sciences (2007).
(4)The first paper in 3 above.
(5)See 1 above.
(6)“Global priority list of antibiotic-resistant bacteria to guide research, discovery, and development of new antibiotics”. World Health Organization (Feb. 27, 2017). https://www.who.int/medicines/publications/global-priority-list-antibiotic-resistant-bacteria/en/
(7)For background on the overuse of antibiotics, see the website of the Centers for Disease Control and Prevention (CDC) of the U.S. Department of Health & Human Services.
https://www.cdc.gov/features/antibioticuse/index.html
Also: "Antimicrobial therapy". Marino P.L. The ICU book (p. 817). Hagerstown, MD: Lippincott Williams & Wilkins (2007).
(8)“Manuka honey against Helicobacter pylori”. Dalton H. R. Journal of the Royal Society of Medicine (1999).
(9)As summarized in “Honey: a sweet solution to the growing problem of antimicrobial resistance?” Maddocks S. E. & Jenkins R. E. Future Microbiology (2013).
The authors report that manuka (and some other) honey is effective against numerous pathogenic microorganisms including bacteria, fungi, and viruses.
https://www.futuremedicine.com/loi/fmb.
Also: “Therapeutic Manuka Honey: No Longer So Alternative”. Carter, D. A., et al. Frontiers in Microbiology (2016). www.frontiersin.org.
And: “Sweet solution: can honey help in the fight against antibiotic resistance?”
By Chris Lo. Pharmaceutical Technology (2014).
https://www.pharmaceutical-technology.com/features/featuresweet-solution-can-honey-help-in-the-fight-against-antibiotic-resistance-4267074/
Medicinal uses | updated 2022.1.28